この記事は月刊マーケティングの特集号の掲載記事です。
プロジェクティングの背景とプロジェクティングがめざすものについての記事です。長文ですがぜひお読みください。
(受講者がプロジェクティング研修で討議しているのは会社の次の世代を支えることができる新商品新事業。教材はすべて自社の実例。研修のための研修では何の意味もない)
大企業病に続く新企業病
御社は今、以下のような状況にないだろうか?
□ 主力事業の収益に翳りが見えはじめてきている。
□ さまざまな施策を講じているが功を奏していない。
□ 会社の次の柱となる新製品や新事業がもう何年も出現していない
□ 社員は言われたことを言われた通りにしかできない
□ 組織全体にやる気が感じられない
□ 社員や幹部からも積極的な提案が上がってこない
これまで日本経済を支えてきた日本の会社が上記のような症状を訴えはじめている。特に創業20年以上の会社に顕著だ。症状と書いたがこれは大企業病に続く新企業病の特徴であるからだ。その企業病は実行型組織病・実行型組織シンドロームである。
この実行型組織シンドロームの実態と治療法に関して詳細に報告する。
戦略型組織と実行型組織
組織はある基準で考えると2種類に分類できる。
それは「戦略型組織」と「実行型組織」である。
ほとんどすべての会社は創業時、戦略型組織として誕生する。
戦略型組織とは常にチャレンジする組織だ。仮説を立て、それを実行し、実行した結果を分析してまた仮説を立て直す。戦略型組織は試行錯誤を繰り返す。その過程では何度も何度も失敗を繰り返す。
しかし、小さな失敗を繰り返して仮説検証が進むとやがて「再現性の高い成功のシナリオ」が見えてくる。
再現性の高い成功のシナリオ
再現性の高い成功のシナリオとは、
□ どのようなお客さまに
□ どのような商品を
□ どのようなコンセプトで
□ ライバルとどのように差別化し
□ どのような方法と、どのような言葉で訴求し
□ どのような仕入先、どのような生産工程で、
□ どのような価格や納期で、
□ どこでまたどのように販売すれば、商品が安定的
に売れ続けるのか?
というマーケティングの答えのことだ。会社は設立5年で85%が倒産・廃業するとする説もあるが、その理由はまさに、再現性の高い成功のシナリオが見つからなかったか、又はその再現性が脆弱で短かったことに起因すると考えられる。
さて再現性の高い成功のシナリオの発見に成功した会社にはここで大きな転換期が訪れる。
再現性の高い成功のシナリオが完成しても、戦略型組織のままでは会社は大きくはならない。会社を大きくするためにはここで戦略型組織から実行型組織へと変革する必要がある。逆説的に言えば「大きな会社のほとんどは実行型組織へと変革している」と言える。
実行型組織とは?
「実行型組織」とは文字通り、発見した再現性の高い成功のシナリオを、ひたすら忠実に実行することを目的とした組織である。一般的にこのステージでは人を増員することになる。人を増やして生産量を上げ、人を増やして営業活動を拡大し、ひたすら売上の拡大をめざしていく。ここで企業は一気に成長ラインに乗る。
戦略型組織には小さな失敗が、やがていつか大きな成功に結び付くというチャレンジ文化が形成されるが、実行型組織では小さな失敗が大きな失敗に繋がるという文化が新たに形成されはじめる。
実行型組織の中ではやがて、新しいことにチャレンジすることは危険だと考えるようになる。決めたことを決めた通りに忠実に実行する方が安全且つ確実に業績を向上させることができると考え、事実、その通りに状況が動くようになる。
経営会議や営業会議は、各部門や各担当者が、決めたこと決めた通りにきちんと行えているか否かの報告会となる。会議が無駄だという声がどこからか聞こえてくるようになるもの実行型組織の典型的な特徴である。
成功のシナリオの老朽化
さて鉄壁だと思われた再現性の高い成功のシナリオにも残念ながらライフサイクルがある。再現性の高い成功のシナリオは、いずれ老朽化・陳腐化する。もちろんそのライフタイムは一定ではない。完成からわずか数年の場合もあれば、それこそ数百年も続く場合もある。だがいずれは必ず老朽化・陳腐化してしまう。その覚悟が必要だと言うことだ。
実行型組織に変革し会社を拡大した後でも、その中に戦略型組織のマインドや機能を残してきた会社の場合には、継続的に再現性の高い成功のシナリオのチューニングを続け、場合によっては早期に次の柱となるユニークな商品や事業を仕掛けているはずだ。
しかし、戦略型組織としての機能を捨て、実行型組織に完全に傾倒してしまった会社の場合、これまでの延長線上から外れた、魅力的な新たな戦略を立案するという、ごくあたりまえのことができない組織体質に陥ってしまう。この状況を我々は実行型組織病・実行型組織シンドロームと名付けた。
実行型組織病からの脱出法
筆者らは実行型組織シンドロームに陥ってしまった日本企業に対してこれまで「プロジェクティング」と言う新たな解決策を提供し成果を上げてきた。
プロジェクティングとは社内から横断的に集めた25歳から45歳までの中堅社員5名の小プロジェクトを2~3チーム作り、以下のテーマで答申案を考えさせ、結成から6か月から12か月後に経営層へ答申を行わせる方法である。
プロジェクティングで解決をめざせる課題
① 顧客から圧倒的に支持される新製品の創出
② 起死回生の売上向上策の立案
③ 次の10年の柱となる新事業候補の創出
プロジェクティングは社内にインパクトを少なくするため社内継続研修の名目でキックオフする。
この研修では、実成果を出している実戦的なマーケティング戦略に関する実践フレームやノウハウを各チームと各メンバーに提供する。
また研修では研修用に用意された架空の事例でなく、実際に自社の①新製品の創出、②売上向上、③新事業の創出をめざす。
プロジェクティングはマーケティング、組織開発(OD)、経営戦略を複合した新たな手法として、2000年にメソッド化され、2006年以降、数多くの企業で導入し、成果を上げている。
筆者は過去に実行型組織シンドロームに陥った企業内でプロジェクトを興し、累計100億円を超える商品群を創出することに成功している。
プロジェクティングでは研修によるさまざまなファシリテーション(促進行動)により、多くのメンバーが、「このプロジェクトの場が我が社にとって、自分にとっての大きなチャンスだ」と捉えてくれるようになり、最終経営者プレゼンテーションでは、粗削りながら、これまでにない新たな可能性を秘めた①新製品の提案、②新事業の提案、③売上向上策に関する戦略提案が行われている。
そして忘れてはならないのはマネージメント上で起きる変化である。プロジェクティングを続けると、
□ 従業員が当事者意識をもって真剣に仕事に取り組んでくれるようになる。
□ 指示待ちの組織から脱却し、自ら考え自ら行動できる組織へと変革する。
□ 何となくやる気の感じられない組織から、活力ある生き生きとした組織へと少しづつ変貌する。
などの変化が現れていく。
非常識とも言える成功のノウハウ
プロジェクティングを成功させるためには、これまでの実行型組織での会議の常識を覆すルールがいくつもある。例えば、
① メンバーは4名でも6名でもなく営業、開発、生産、管理、企画など部門横断的に集めた5名を必須とする。
② プロジェクト会議では自分の考えをまとめた資料の作成・提出を禁止する。
③ 議題の進行に関係なく1回のプロジェクトに必ず3時間以上を費やす。
④ プロジェクト内ではセクショナリズムを完全撤廃し、常に完全な顧客視点でのみ会議を進める。
⑤ 毎月最低1回、プロジェクト会議日を設定し、その実施及び全メンバーの参加を必須とする。
⑥ プロジェクトには経費予算も権限も与えず、唯一の権限は経営層にプレゼンテーションができることとする等である。
これまでのプロジェクトや会議の進め方と比較すれば非常識な考え方も含まれるが、このすべてが20年の実践経験に基づくものであり、本来の目的を達成させるためには踏襲すべき重要なノウハウである。
実行型組織であることが悪いということでは決してない。決めたことをしっかりと推進できることは力である。だからこそそこに戦略型組織の機能があれば、会社はさらに強くなる。プロジェクティングはそれを可能にする方法だと考えている。
(森本尚樹)