私の著書「マーケティングは他社の強みを捨てることから始まる」では「差別化戦略」に疑問を投げ掛けています。この本のタイトルにもあるように、競合他社の強みを自社製品に取り入れることに私は警鐘を鳴らしています。
しかし、本当の問題はこの方法で商品開発を行うことではありません。別にこの方法で商品開発を行ってはいけません!と短絡的に否定している訳ではないのです。(書籍ではある程度、断定的に書いていますが・・・)
実は最も重要なことは、自分が今、どのような戦略を選択したのか?を正しく理解することです。自ら選択した戦略にどのような危険があるのか、それを知った上で実行するならば何の問題もありません。費用対効果を勘案した投資を行えばいいのです。だがほとんどの会社は自らが選択した商品戦略にどのような危険をはらむものなのか?そして本当にめざすべき戦略は何なのかを理解していません。
商品戦略はたった4つのカテゴリーで説明することができます。
まず中央のAのカテゴリーは競合他社とまったく同じ利点をもった商品です。他社の利点を取り込み、その利点を増幅させ、競合他社の欠点を改善し、付加価値を付けた商品がこのカテゴリーになります。この商品戦略でオリジナル商品に勝つのは困難です。又、同じ戦略の商品が多数発生し、すぐにそうしたマネ商品同志で(価格)戦争が起きます。
次に領域Bです。これは競合他社が本来やるべき領域であるにもかかわらず、今はまだやっていない領域です。この領域を発見するとほとんどの会社は喜びます。秘宝を発見したがごとく喜び参入しますが、本来やるべき競合他社が大手で、そのスキマを発見したのが力が弱い会社であれば、すぐに大手に追従され駆逐されてしまいます。「どうせすぐに大手にマネされて終わりだ」と嘆くのは実はこのBの領域に参入した場合です。
さらに円の外側のCの領域ですが、これはどこにもなかった商品や、大手が相手にしないいわゆるニッチの領域です。オンリーワンの領域ですが、実はこれも成功するのはきわめて難しいのが現実です。顧客の啓蒙からすべて自社で行わなくてはならず、ほとんどの商品は成長曲線に乗ることなく、消えてゆく運命です。オンリーワンの商品は言うほど成功させるのは難しいのです。
では皆さんに質問です。本当にめざすべきCの領域とはどのような商品しょうか?
皆さんも考えてみてください。
実はこのCの領域とは競合他社がやりたがらない領域です。この領域の商品をやれば、自社の強みや、自社の既存商品の売上に悪影響を及ぼす商品です。
ここです。ここを狙ってください!
特に競合会社が大手であればあるほど、この領域には簡単には参入してきません。相当なダメージを蒙るまでは追従してきません。
例えば保温技術が強みで電気ポットのシェアが高ければ、保温せずに飲みたいときに飲みたい量だけ沸かすのがコンセプトである電気ケトルは手が出しにくい領域になります。
積極的に販売すればカニバリゼーション(自社商品の中での共食い)が発生します。今、販売している主力商品よりも機能がシンプルで価格が安いものならば、売上高を下げることのなり社内で戦略がまとまりません。保温ポットにぶつけるなら、もっと電気代が安く、もっとおいしいお湯が保温できる、もっと安価な電気ポットではなく、電気ケトルなのです。
ナショナルの全自動おそうじトイレ「アラウーノ」はご存知でしょうか?この商品にはトイレの汚れを簡単に落とすために、有機ガラス系の新素材が用いられています。陶器であることを捨てたのです。では陶器加工技術が強みである会社は、他の素材の商品にすぐに追従をしてくるでしょうか?答えはおそらくノーです。(又、そうすべきでもありません)
新素材を開発した会社は「新素材なので陶器よりもこんなに簡単に汚れが落ちます」とシンプルなキラーメッセージで営業ができます。
このCの領域の商品はつまり「ありそうでなかった商品領域」です。そしてこの領域の商品を生みだす方法こそが3S・ステカンバン発想法なのです。
▽ アラウーノ