先週の土曜日のこと。
小学校の公開授業が終了して、家に帰ってきた息子が何だかそわそわしていました。
友達から「僕のピアノの発表会に聞きに来てね」と誘われたとのこと。
開演は午後12時半、彼の友達の出番は17番目で、曲目は坂本龍一の戦場のメリークリスマス。場所は横浜駅の近くで自転車なら10分以内で行ける場所。
ただそこまでは交通量も多く、行きなれない場所だったこともあり、
息子をひとりで行かせる訳には行きません。
その日は12時に来客の予定があり、一緒に行ってあげることができません。用事が済んだのが午後1時15分過ぎ。
もう息子はいてもたってもいられません。
そんな息子に私は落ち着いてこう言いました。
「いいか、開演は12時半だ。1名5分として17番目だから友達の出番は85分後、つまり1時55分頃だ。万一、1名4分だとして開演から68分後、つまり1時38分が出番だ。しかも、開演時間なんて遅れるもんなんだよ」
それでも息子は玄関を飛び出すと、マンションの自転車置場まで走って行き、
自分の自転車に飛び乗りました。
そして私が自分の自転車を用意する間もなく、
いきなり走りだしました。
「あ、こらまて!あぶない!飛ばすな!」
いくら叫んでも息子はグングンとスピードを上げます。
私はついて行くのがやっと。笑
息子はまっすぐに前を向いて全力で自転車を漕ぎます。
会場へはわずか6~7分で到着してしまいました。
時計を見ると1時25分前。
会場への階段を全力で駆け上がる息子。
そんなに焦らなくてもいいのに。
会場の扉を開けるとエリーゼのためにが演奏されていました。
プログラムを上から順に確認します。
12、13、14、15、16、17・・・18、19、20!
エリーゼのためには・・・20番目でした。
「終わってる・・・・」
息を切らしながら息子はうなだれました。
「帰ろ」
息子は寂しそうにそう言いました。
「とりあえず来たことだけ伝えれば?ほら控室に行ってみようよ」
「大丈夫、明日、聞けなくてごめんねって謝るから。大丈夫」
「でもほら一応、控室行ってみよ」
「来てねって言われたんじゃなくて、聞いてねって言われたんだから、だから明日、ちゃんと謝るから大丈夫」
息子は笑顔で汗をぬぐいました。
私はもう返す言葉ありませんでした。
何でも計算づくでうまく行動できると思い込んでいる大人。
結果がだめでも「私は全力で頑張りました」と伝えて、とりあえず体裁を整えようとする大人。
いつからか全力で走ることを忘れてしまった大人。
小さな約束の重たさを忘れてしまった大人。
本当に大切なことを知っているのは僕ではないと、
帰り道、次の約束のために、あいかわらず全力で自転車を漕ぐ
息子の背中を見て思いました。
マーケティングインストラクター 森本尚樹